*インタビューをお受けいただいた方のご所属・お役職は取材当時のものです。
事業内容を教えてください
伐採後の再造林を促進して健全な森林づくりを行っています。
以前は植栽・下刈りなどの造林事業を中心に行っていましたが、現在は管轄地域に森林を所有する組合員から経営委託を受け、山の木を切って木材として販売する素材生産事業を主に取り組んでいます。全国的に、伐採後に造林しないまま放置される再造林放棄地の増加が問題となっています。当組合では、組合員から伐採~植栽~下刈りを一括で受託して組合員に利益還元することで、伐採後の造林を促進し、再造林放棄地の発生を防いでいます。
また、放置竹林を伐採して広葉樹を植える「放置竹林整備事業」や、松くい虫被害跡地に生長が早い早生樹を植える「松くい虫被害跡地整備事業」、間伐した木材を搬出して合板やチップ用に利用する「搬出間伐事業」、家具製造グループと共同で家具用材を育てる「家具の森」などにも取り組んでいます。地域とも積極的に関わり、子供たちと一緒に苗木を植えたり、地域の消防団員などにチェーンソーの使い方を指導したりして、森林組合の活動を広くPRしています。
三洋製紙との関わりについて
バイオマスボイラーの稼働により未利用だったC材の需要が高まりました。
令和2年度には本格的に主伐に取り組んだこともあり、素材の生産量は平成27年度の約2倍の35千㎥となりました。そして、その7割が合板用のB材、3割が木質チップ用のC材です。木質チップ用の需要がなかった時には、C材や枝葉は山に置き去りにしていましたが、大雨が降った時に放置材が大量に流れ出す恐れもあり、そうした二次災害を起こさないためにも、C材のような間伐材を山から出して有効活用する方法が求められていました。
そんな時に三洋製紙のバイオマス発電事業がスタートしたのは、林業にとっても地域にとっても非常に大きなことでした。バイオマスボイラーが稼働したことにより、木質チップ用のC材の需要が大幅に増加し、従来は林内に放置されていた枝葉や木の根元、梢端などの林地残材も搬出できるようになりました。間伐した後の林内がきれいになり、組合員も喜んでいますし、これまでは利益がなかった間伐で収入が得られるようになり、森林所有者が山に目を向ける機会にもなっています。
地元木材を使うメリットについて
木材を使うことで森林が若返り、二酸化炭素吸収量の増加につながります。
第二次大戦後に木材需要が大幅に増え、昭和20年代後半から40年代前半を中心にスギ・ヒノキなどが大量に植えられました。そして今、木材として利用できる樹齢になりましたが、木材価格は植えた当時と比べてかなり低下してしまいました。現在は自治体からの補助金と森林組合の助成により、森林所有者に利益を還元する形で間伐を行っていますが、間伐をせずにそのまま放置される森林もまだ多く残っています。
SDGsや脱炭素社会を目指すカーボンニュートラルの実現など、森林に対する期待は年々高まっています。森林の二酸化炭素吸収量は樹齢11~40年までがピークといわれています。ただ切らずに置いておくだけでは脱炭素にはつながりません。どんどん木を切り出して再造林し、森林を若返らせてあげることが、二酸化炭素の吸収量増加につながります。切り出した木は、建材などに使うことで、生長過程で吸収した炭素を木材内にそのまま貯えておくことができます。また、チップ化して、エネルギー源として燃焼利用した場合も、大気中に放出された二酸化炭素は、再び生長盛んな森林に吸収され、カーボンニュートラルの状態を保つことができます。木材とバイオマス燃料の両方で需要と供給を増やすことが、地域に資源と炭素の好循環を生み出すことにつながります。
今後の林業の展望について
林業は経済と環境を両立させる産業として生まれ変わります。
森林の公益的機能の持続的発揮に期待が高まっている中で、森林を守り育てる林業への期待も高まっていることから、今、森林・林業に追い風が吹いているといえます。林業がないと森林は整備できないと思っています。この追い風をしっかりとらえ、森林の適切な管理と林業の成長産業化につなげていきたいです。戦後の高度経済成長期に造成されたスギ・ヒノキ林が利用期を迎えていることから、今後は素材生産の大幅な増加を見込んでいます。主伐後は、森林による二酸化炭素吸収量を確保していくためにも、生長の早い樹種による再造林を進めていくことが重要です。
これからの林業はトラック道などの路網整備やICTの活用、生長の早い木の植栽拡大により、生産性の向上や林業コストの低減、伐採サイクルの短縮が見込めます。そして、市場が求める木材の生産により、安定的な林業経営も可能になると考えています。林業はこれから、経済と環境が両立する産業になるのではないかと感じています。いつも従業員には、「私たちは人々の生活を守っている。プライドを持って。」と話しています。今後も、職員・技能員の就労環境や待遇の改善を行いながら、人財の育成に努めていきたいです。
バイオマス発電の可能性について
「森林なくして、生活なし」。地元材を使ったエネルギー供給を後押ししていきたい。
今後、木質チップの原料となるC材の搬出も増大することが見込まれます。現在、近隣の民間企業と連携して、間伐材や枝葉を、どうしたらお互いの利益につなげながら安定的に搬出できるのか、新たな方法を協力して模索しています。また、効率よく燃料用木質チップの原料を得られるように、3~5年で収穫できるハコヤナギなどを耕作放棄地に植える「エネルギーの森」づくりにも取り組んでいきたいと考えています。エネルギーの森は燃料用チップの農業的な生産方法で、収穫と同時にチップ化してトラックに積むことができます。
地域に電力を供給するボイラーを止めるわけにはいきません。われわれも使命感を持って、木質チップ用の原料を、計画的・安定的に供給していきたいと考えています。水や空気だけではなく、今や電気もないと私たちは暮らしていけないように「森林なくして、生活なし。林業なくして、森林なし。」といっても過言ではないと思っています。木材を使うことが森林・林業を守り、脱炭素社会の実現につながることを県民の皆さんに理解していただけるよう、しっかりと情報発信していきたいです。
インタビュー内で使用されている専門用語について
B材・C材とは、木材を品質(曲がりなどの形状)や用途によって分類する通称です。
- 『 B材 』主に合板などに利用されるもの
- 『 C材 』主にチップ材(製紙用・エネルギー用)として利用されるもの